安倍晋三政権の内幕を再現。調査報道スタイル。読み応えあり
宿命の子。上下巻
船橋洋一さんは時々、分厚い本を書く。
最初に読んだのは「同盟漂流」。橋本龍太郎政権と米政権が日米安保をめぐりどう交渉していたかをえぐりだしたノンフィクション、ドキュメント。
ものすごい数の人々に取材し、きちんとソースを明示している。
安倍政権の始まりから終わりまで、裏側でどんな人たちがどうふるまい、あのアウトプットになったのか。ふだん私たちは、新聞やテレビ雑誌などの報道や識者のSNSを通して、知ったり、知った気になったり、あれこれの論評を読んだりしていたわけだが、「実際はこのような政策形成過程だったんだよ」と掘り起こしてくれた形で、なんとなく「ああ、あの件はそういうことだったのか」と答え合わせをしている気になってくる本だ。
なかには「モリかけ問題への追及が足りない」「統一教会問題にもまったく触れていない」という点を批判する向きもいるだろうが、それは甘んじて批判を受け入れるつもりで書いているのではないだろうか。この本は政権在任中の政策形成ドラマを描くことに眼目があり、とくに統一教会問題は、在任中はあまり問題にならなかったのだから、取材範囲外ということなんだろうと思う。
残る二つの問題に肉薄する作品がでたらそれはそれで高く評価されるべきだろうが、船橋さんのこの著作の価値はこれはこれで素晴らしいと思う。ほかの方には真似のできない取材力なのだから。